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小説「20世紀ウィザード異聞」の番外編です
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はじめに

この作品は「20世紀ウィザード異聞」の番外編にあたります。
単独でもお読みいただけますが、できれば本編のほうも読んでいただければ、世界観や登場人物の関係がわかり易いかと思います。
本編はブログ小説(完結済)と自サイト(pine treeの丘で)の小説ページ、どちらからでもどうぞ。
既に本編を読まれた方は、多少違う時系列、違う設定で書かれていますので違和感があるかもしれませんね。

なにせ一年前の作品ですので、文章の稚拙さは否めません。うきゃ~恥ずかしい!
ま、その。本編では書かれなかったオーリとエレインの休日デート編だと思っていただければ。

なお、落雷に関する科学的なツッコミはご容赦ください。
あくまでも作者の妄想世界でのお話ですので。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 夏の日の午後は長い。けれど八月も終わりになると、夕風が涼しくなる。
 オーリローリ・ガルバイヤンは、空の色を映したような明るい目を窓の外に向けた。画家という職業柄か、絵になる雲の形につい見入ってしまい、彼は苦笑した。
「絵筆の後片付けを頼むよ、ステファン」
「どこかへ出かけるんですか?」
「まあね。エレインも休みだし、散歩にはいい季節だ」
 彼は黒いローブと愛用の杖を手にした。
「なんだ、デートか。頑張ってね先生」
「……十歳の子どもに言われるとは思わなかったよ」
 まだ幼い弟子にアトリエを任せると、彼は長い銀髪を揺らしてローブを羽織った。

 一階ではさっきから家政婦のマーシャと守護者エレインが、何やらもめている。
「オーリ聞いてよ、マーシャったらあたしにスカート履けって言うのよ!」
「当たり前でございましょ、年頃のお嬢さんなんですから。せめてお二人でお出かけの時くらい、身ぎれいになさいませ」
 竜人の娘、エレインは首をすくめた。いつも狩猟神のように自在に森を駆け回っている彼女には、ひらひらして動きにくい『スカート』など履く意味がわからない。一方、女性が活動的になってきたとはいえ二十世紀半ばのこの時代、ヘソの出るような短い胴着と短いズボンで過ごす若い娘など、前世紀から生きているマーシャには理解し難いだろう。オーリは笑いをこらえるのに苦労した。
「マーシャ、エレインに人間の価値観を押し付けたってダメだよ。
エレイン、そのままでいいよ。別に街に出かけるんじゃなし、散歩に出るだけだから」
 エレインは『スカート』なるものから解放されて喜んだ。
「まったくあんな短いズボンで……最近の流行でございますかね!」
 マーシャは頭を振り、エレインのために見立てた青いジョーゼットのスカートを、まだ残念そうに見ていた。
「まあいつか見てみたい気もする。君がドレスアップしたら綺麗だろうね」
「ドレス……なに?」
「いいよ、人間のたわごとだ。さて、出かけますか『お嬢さん』」
 オーリはわざとらしく腕を差し出した。

 黒々とした針葉樹の森を越えると、小さな湖を抱いた谷がある。
 竜人である彼女の故郷を思い起こさせるこの場所に、時々オーリはエレインを誘って出かける。故郷を忘れないために、とオーリは言う。
 けれどエレインには複雑な思いがある。

 二年前、エレインの故郷は消えた。
 正確には、人間共に奪い取られた。

 

 普段、エレインはことさら陽気に、快活に振舞ってはいるが、竜人の魔力が消える新月の日には、どうしようもなく哀しく、消えた故郷や消えた同胞のことが思い出されて鬱気分になる。
 それを知って、わざわざオーリは遠い湖まで『飛んで』くれる。
 そう、彼は画家である前に魔法使いでもあった。
 彼の魔力がどれほどのものかは知らないが、二人分の瞬間移動は相当に力を消費するだろうことは予想できる。だがオーリはこともなげに『散歩』と言ってのける。

 二年前、竜人の守り里と共に滅びる覚悟で居たエレインを、人間の世界に来て生き延びるように訴えたのはオーリだ。
 一対一で闘って力を示すこと条件にした竜人の娘を、この年若い魔法使いはいとも簡単に打ち負かした。人間などに負けた屈辱感と、奴婢として扱われるだろうという覚悟から剣を折ろうとしたエレインを押し留め、オーリは膝を折り、礼をつくして契約を申し出た。なんとも変わり者の魔法使い、それがオーリの印象だった。
 それまでエレインが知っている人間は、ことに魔法使いなどという者は、自分たちと異質な者に対して、殺すか、奪うか、支配するかしかしないものだと思っていた。
 オーリは違った。
 あの人懐こい、明るい水色の目で、竜人の話を聞きたがった。
 竜人狩りを認めるような人間には髪の毛を逆立てて怒った。
 エレインの同胞が全て滅んだことを知った時には、一緒に泣き明かした。
 これほど竜人に思い入れの深い人間が居ること自体、不思議だ。
「竜人になりたかった」とオーリは言う。
 それが叶わないからせめて、竜の王が司るという雷に近づこうと、スパークを操る魔法を身につけたのだ、と笑う。

 なぜこんな変わり者と契約する気になったのか、いまだにエレインは不思議でならない。
 人間の世界は思ったほど酷くはなかった。
 オーリは自分を大切にしていてくれる。マーシャは好きだし、ステファンはかわいい。
 けれど、とエレインは思う。
 ここはやはり、自分の世界ではないな、と。



「時々は思慮深い顔もするんだねえ」
 オーリが感心したように言った。
「時々? ときどきとは何よ! あたしがいつもどんな顔してるって?」
「いや、いい顔してる。ほんと、竜人は哲学的だ」
 クックッと笑いながら、オーリは肩越しに湖を指差した。
「ちょっと見せたいものがある」

 オーリが向かったのは、湖の番人の小屋だった。
「や、ボリス。景気どう?」
「……いいわけないやな」
 ボリスと呼ばれた髭づらの男は、うさんくさそうにエレインをちらっと見た。
「近頃は人間以外にも、妙なやつらが水を穢しに来るんでな」
「そりゃ問題だ。君の仕事も増える一方だね」
「ああ、カネにならん仕事ばかしさ……ところで、舟かい?」
「もう修理できたころかと思ってね」
「裏にあるから、勝手に乗り回すなりしてくれ。俺はもう帰るから、後は好きにすりゃいい」
「恩にきるよ、ボリス。これで飲んでくれ」
 オーリが幾許かの代価を払うと、髭づらの男はニヤっと笑い、
「今夜は月の魔力が消える。せいぜい妙な呪いを受けないようにな」
 と意味ありげに言い残して、小屋を後にした。
「やな感じ! なーにが呪いよ」
「気にしない、エレイン。いろんな人間がいるんだよ」
 オーリはエレインを促して小屋の裏手に回った。



 湖に続いている小屋の裏には、細い三日月型の小舟が置かれている。
「すごいだろ。革張りだよ革張り!」
 オーリは宝物を見せる子供のように目を輝かせた。
「ど、どうしたのこれ?」
「北方先住民が乗ってたのと同じ舟だよ。作りっぱなしで放って置かれたのを貰い受けたんで、ボリスに修理を頼んでたんだ」
「オーリ……また道楽ってやつ?」
「なに言ってる、立派な研究だ。歴史的検証ってやつ」

 オーリはエレインを先に乗せ、舟を湖に押し出した。
「エレイン、竜人はどんな舟を作った?」
「さ、さあ。あまり覚えてない……ひゃーっ!」
 いきなりオーリが飛び乗ったので、小舟はグラグラと揺れた。
「なーにがひゃーっ、だ。泳ぎは得意だろ?」
「知らないの? 陽が落ちたら泳いじゃいけないのよ。魔物に足をひっぱられるんだから!」
「竜人にも迷信があるのか」
 笑いながら、オーリは櫂をとった。
「迷信じゃなくて、先人の言い伝えなの。他にもあるんだから!」
「呪いの言葉とか? 調べたことがあるよ。ええと、カミナリに罰をくらうんだった?」
「そういうのは特別な……オーリ!」
 エレインは前を見つめて息をのんだ。
「すごい! あの夕陽、すごい!」
 雲を従えた夕陽が山の端にかかり、今しも沈もうとしている。
 光の矢が幾筋も湖に投げられ、湖面が黄金色に染まる。
 舟はその金波の中を分け入って進んでいく。
「いいね、一度こういう中を漕いでみたかった!」
 櫂を操るオーリの背中で、銀髪が光った。



 やがて夕陽がすっかり姿を隠してしまうと、
 湖はしんとしてしまった。
 まだ辺りは明るいが、空の色は刻々と変化してゆく。紫色の雲の端に、僅かな夕陽の名残があった。
 オーリは櫂を操るスピードをゆるめた。



*2話は9/10(水) 9/8更新。
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secret
こんばんは~!!
うふふ、二人のデート♪
楽しみです!!
そうです、まだ読んでないのです。ごめんなさい~(><)
この時間、ひどく眠いので。それにね、松果さんの作品は朝読むと元気が出るのです♪
また来ますから~♪
らんらら URL 2008/09/04(Thu)  23:26 編集
おはようございます~♪
うふふ、うふふ。
何か事件が起こりそうで、でもこのままロマンチックにデートして欲しいような…。
エレイン視点なんですね~♪オーリ、カッコイイところを見せてくれるといいなぁ!!
らんらら URL 2008/09/05(Fri)  08:33 編集
らんららさんへ
おはようございます♪
忙しいのにいつもありがとう~

いやー、今読み返しても恥ずかしい、あっちもこっちも直したい文章なんですが。
まあいいや、と最低限の修整だけで公開しちゃいました。
エレイン視点…どうかなー、途中でまた変わるかもよ(笑)
ロマンチックなデートにしてあげたいんだけどね、なにせこの二人だから騒動の一つや二つはありそうですよ。
例によってラブシーンは無し。そこは期待しないで(^_^;)
その代わり、二人の心の距離はうんと近くなる…はずです、たぶん。
全部で4~5話くらいになると思うから、お付き合いくださいませ。
松果 URL 2008/09/05(Fri)  08:59 編集
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