小説「20世紀ウィザード異聞」の番外編です
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新月が過ぎ、月が再び光を取り戻すと共に、エレインの魔力は戻り、傷も回復した。
オーリのほうが症状は重かった。皮膚表面の火傷だけではなく、身体の何箇所かは一時的に麻痺していたし、筋肉を傷めたらしく2日ほどは熱を出した。
魔法使いといえども生身の人間だ。治癒魔法をもってしても、深刻なダメージから回復するのは容易ではないのだな、とステファンは痛感した。
救いなのは、エレインが憎まれ口を叩きながらもつきっきりでオーリの看病をしていることだ。 ステファンやマーシャが時々交替するものの、ほとんどオーリから離れようとしない。なんだかんだいってやっぱり仲がいいんじゃないか、とステファンを安心させるには充分な出来事だった。
だが熱が下がってベッドに起き上がれるようになると、またしてもオーリの悪い癖が出始めた。
「ふむ、なかなかいいデザインだ」
オーリは自分の身体に残った電紋を興味深々でスケッチしていた。
「なーにやってんのよ」
エレインが呆れるのをよそに、オーリは講釈を垂れる。
「この樹形なんて面白いと思わないか? 電流が身体の表面を駆け抜けただけでこれだけの形状が残る。あの時は湖に潜ったせいでずぶぬれだったが、もっと電気抵抗の大きい状態ならどうだろう? エレイン、君の竜紋も美しいが、カミナリの造形もまた……」
「あーっもうバカバカしい!」
エレインはスケッチブックを取り上げ、
「オーリ、これ」
と、黒こげになった金属の固まりを差し出した。
「あの時、ローブのポケットに入ったままだったでしょう。 丁度これがあった真下の皮膚を火傷したんだけど……」
「ああ、これね。やっぱり壊れたか。参ったな」
オーリは黒こげの懐中時計を手に取った。
「オーリ、わざとでしょう?」
エレインは神妙な顔をした。
「あの時、あたしは“雷(いかずち)の罰”を受けるはずだった。オーリはわざとこの時計を残して、心臓に直撃しないようにしてくれたんでしょう?」
「さあ、どうだったかな。ポケットに忘れてただけかもしれないよ」
時計の蓋を開け、内側の文字を懐かしそうに眺めながらオーリはつぶやいた。
「わたしが独り立ちする時、師匠からもらった時計だ。ずっとローブと一緒に持ち歩いてきたんだったな」
「そんな大事なものなのに……」
「エレイン、物の価値なんてその時その時で変わる。 杖も、ローブも、そしてこの時計も、今回のことでみんなダメにしてしまったけど、それは修理するなり買い換えるなりすればいい。 だけど、代替の利かないものもあるからね……」
オーリは手を伸ばして、エレインの顔にかかる赤い巻き毛をかき上げた。
「先生ー!なんとかして!」
突然、隣の書斎からステファンが飛び込んできた。
「羽根ペンが暴れて、ぼくを刺して来るんだ!」
「ううう。空気を読まないやつめ」
オーリは顔をしかめた。
「はいはい、ステフ。生きて勝手に飛び回るペンなんてね、こうすりゃいいのよ」
エレインは書斎に向かい、ドアを閉めると同時になにかを叩き落すような派手な音を立て始めた。
「おーいエレイン、ペン軸だけは折らないでくれよ……」
こうなったら意地でも早く回復して、エレインに壊されないうちに羽根ペンたちを避難させなければ、とため息をつくオーリであった。
(終わり)
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オーリのほうが症状は重かった。皮膚表面の火傷だけではなく、身体の何箇所かは一時的に麻痺していたし、筋肉を傷めたらしく2日ほどは熱を出した。
魔法使いといえども生身の人間だ。治癒魔法をもってしても、深刻なダメージから回復するのは容易ではないのだな、とステファンは痛感した。
救いなのは、エレインが憎まれ口を叩きながらもつきっきりでオーリの看病をしていることだ。 ステファンやマーシャが時々交替するものの、ほとんどオーリから離れようとしない。なんだかんだいってやっぱり仲がいいんじゃないか、とステファンを安心させるには充分な出来事だった。
だが熱が下がってベッドに起き上がれるようになると、またしてもオーリの悪い癖が出始めた。
「ふむ、なかなかいいデザインだ」
オーリは自分の身体に残った電紋を興味深々でスケッチしていた。
「なーにやってんのよ」
エレインが呆れるのをよそに、オーリは講釈を垂れる。
「この樹形なんて面白いと思わないか? 電流が身体の表面を駆け抜けただけでこれだけの形状が残る。あの時は湖に潜ったせいでずぶぬれだったが、もっと電気抵抗の大きい状態ならどうだろう? エレイン、君の竜紋も美しいが、カミナリの造形もまた……」
「あーっもうバカバカしい!」
エレインはスケッチブックを取り上げ、
「オーリ、これ」
と、黒こげになった金属の固まりを差し出した。
「あの時、ローブのポケットに入ったままだったでしょう。 丁度これがあった真下の皮膚を火傷したんだけど……」
「ああ、これね。やっぱり壊れたか。参ったな」
オーリは黒こげの懐中時計を手に取った。
「オーリ、わざとでしょう?」
エレインは神妙な顔をした。
「あの時、あたしは“雷(いかずち)の罰”を受けるはずだった。オーリはわざとこの時計を残して、心臓に直撃しないようにしてくれたんでしょう?」
「さあ、どうだったかな。ポケットに忘れてただけかもしれないよ」
時計の蓋を開け、内側の文字を懐かしそうに眺めながらオーリはつぶやいた。
「わたしが独り立ちする時、師匠からもらった時計だ。ずっとローブと一緒に持ち歩いてきたんだったな」
「そんな大事なものなのに……」
「エレイン、物の価値なんてその時その時で変わる。 杖も、ローブも、そしてこの時計も、今回のことでみんなダメにしてしまったけど、それは修理するなり買い換えるなりすればいい。 だけど、代替の利かないものもあるからね……」
オーリは手を伸ばして、エレインの顔にかかる赤い巻き毛をかき上げた。
「先生ー!なんとかして!」
突然、隣の書斎からステファンが飛び込んできた。
「羽根ペンが暴れて、ぼくを刺して来るんだ!」
「ううう。空気を読まないやつめ」
オーリは顔をしかめた。
「はいはい、ステフ。生きて勝手に飛び回るペンなんてね、こうすりゃいいのよ」
エレインは書斎に向かい、ドアを閉めると同時になにかを叩き落すような派手な音を立て始めた。
「おーいエレイン、ペン軸だけは折らないでくれよ……」
こうなったら意地でも早く回復して、エレインに壊されないうちに羽根ペンたちを避難させなければ、とため息をつくオーリであった。
(終わり)
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